交接する蛇を殺した火消しの死
どんな伝承か
『兎園小説』より。文政八年四月二十七、八日ごろ、柳川侯の邸内、浅草鳥越の中屋敷に住む火消しの仲間、千次郎と程五郎が、田字亭という茶屋のほとりで交接している蛇を見つけ、さんざん打ちすえて殺し、門前の溝に捨てた。千次郎は五月八日に上屋敷へ詰めた帰りから病みつき、程五郎は蛇のたたりだろうと戸田川の辺の羽黒山へ水を乞いに行ったが、僧に助からぬと言われ、千次郎は五月十五日に死んだ。程五郎も二十日ごろから肩腹が痛みだし、熱にうかされて蛇のことばかり口走り、菩提寺に駆け込んで剃髪を願うほど狂って、六月一日に死んだ。蛇殺しを手伝った栄吉も病み、危篤の末にようやく癒えたという。
原典より
かくて、右千次郎は五月八日、上野御成りの節上屋敷に詰め、その帰りから病気づき、甚だ苦しんだので、かの程五郎は蛇のたたりだろうと察した。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。