口笛の声が答える大目村の怪事
どんな伝承か
明治二十六年十一月中旬から、山梨県北都留郡大目村の杉本永山方に大きな怪事が起こった。その本体は形も影もなく、目にも見えず手にも触れられないが、空中に人の口笛のような奇怪な声があり、五音を言い分けて人と問答した。誰が問いを発しても必ず答え、四、五間離れた所や隣家からもはっきり聞こえた。はじめは夜だけだったが、のちには昼夜を分かたず聞こえ、近村の大評判となって家の門の内外が人垣で埋まった。声の出所を確かめようと位置を変えて試したが、家の中から、戸外から、上下左右からと聞こえ、正体はつかめなかった。織りかけの機糸が何度も断ち切られる怪もあり、近辺では狐狸のしわざとされた。
原典より
そしてその声は、あたかも人の口笛のようなひびきで、能く五音を言いわけて、人と問答会話をするので、誰でもこの声に向かって問いを発せば、一々その答えを得るという。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。