相撲を取る二人が見える堅田の怪火
どんな伝承か
『周遊奇談』より。近江国堅田村には昔から怪しい火が出ると伝えられる。曇った夜には四季を問わず現れ、まず湖の岸から小さな火が出て、次第に田のほうへ移りながら広がる。小さいときは一尺ほどで火勢は強くない。月夜には出ず、小雨の夜や曇り夜に出るという。地上四、五尺のあたりに人の顔が現れ、二人が裸で左右の手を組み、相撲を取るような形に見える。胸から上は見えるが下はない。ある男がこの火を試そうと田の畔に隠れて待ち、火が近づいたところへ「ヤア」と声をかけて飛びかかったが、五、六間先の田の中へ投げ飛ばされた。男は大力の田舎相撲の関取で、稲のできたころゆえ怪我はなかった。
原典より
人の面顕れ、両人裸にて左右の手を組、角力など取形なり、胸より上は見ゆれども下はなし、…—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。