小須戸の舟人を包んだみのぼしの火
どんな伝承か
「みのぼし」は、自分の全身に火が燃えるのがはっきり見える怪異で、驚き狼狽すると火勢はますます激しくなるが、決して熱は感じず、やけどもしない。本人だけに見えて傍の者には見えないこともある。十二、三年前、小須戸町に住む舟人某が客を一人乗せ、午前一時ごろ新潟へ向けて漕ぎ出したところ、字五町原というところで、突然おのれの全身に火が燃えるのを見た。だが某はかねてみのぼしのことを聞き知っており、火を点ずればたちまち消えると知っていたので、慌てずに客に頼んで寸燐(マッチ)をすらせた。すると火は果たして消え失せた。客のほうには舟人の全身の火は見えなかったという。
原典より
字五町原といへる所に来りし頃、忽ち己の全身に火の燃ゆるを見たり、—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。