偽の使いに化けて金を取った狸
どんな伝承か
四国の阿波、板野郡名頭村の農家で近ごろ怪事が続き、人々は狸の仕業だと噂した。誰もいないのに包丁がひとりでに動き、鍋で煮ている魚がいつの間にか消えた。また、借りた金を返してほしいという貸し主の使いが来たので渡したところ、数日後に貸し主本人が取り立てに来て、使いなど知らないという。これで狸にだまされたと分かり、改めて返済した。さらに夜中に飼い馬の尾が鋭い歯で噛み切られ、厩をすき間なく閉ざしたのに馬は逃げ出した。厩を開けてみると、先に偽の使いに渡した貨幣があちこちに散らばっていたという。
原典より
そこで戸を開いて中に入ってみると、さきに、債主(金を貸してくれた人)の使いの者に与えた貨幣があっちこっちにちらばっていた。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。