炭取を回した曾祖母の亡霊
どんな伝承か
佐々木氏の曾祖母が年老いて死去した時、棺に納め、親族が集まってその夜は一同座敷に寝た。喪の間は火の気を絶やすことを忌むのが所の風なので、祖母と母の二人だけが大きな囲炉裏の両側に坐り、母人は傍に炭籠を置いて折々炭を継いでいた。ふと裏口の方から足音がして来る者を見れば、亡くなった老女である。平生腰が屈んで衣物の裾を三角に取り上げて前に縫い付けていたが、まざまざとその通りで、縞目にも見覚えがあった。二人の坐る炉の脇を通り行くとて裾が炭取に触れ、丸い炭取ゆえくるりと廻った。母人が見送ると、親縁の人々が臥した座敷の方へ近寄り、離縁されて乱心していた娘がけたたましい声でおばあさんが来たと叫んだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。