常円寺の参道に立つ犬卒塔婆
どんな伝承か
産の事故が身近だった時代、安産を願う習俗も盛んだった。平成二十六年五月、茨城県鉾田市青柳の菩提寺、曹洞宗常円寺の参道口に、高さ六十センチほどのY字形の又木が七本立っていた。削った面に南無六導や畜犬帰依の文字が墨書され、施主として青柳内の小字の女人講の名が記されていた。隣家の女性によれば、この辺では犬供養と呼び、若い女だけの講に入った人が年に一度、自分で採って削った又木に寺の僧に字を書いてもらい、安産を祈って立てるという。近くの村ではしないらしい。犬卒塔婆は関東東部から東北南部に多く、多産で産の軽い犬にあやかるものとされる。宮城県白石市白川には犬卒都婆の地名も残る。
原典より
渡し舟で出産した女性の話花見潟墓地遺骨は穴に投げ入れる両墓制と散骨殯とは何か文献に見える古代の殯—— 村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年))
『村の奇譚 ― 里の遺風』は、民俗研究者の筒井功が平成三十年に著した民俗探訪記である。修験の里の石室、石風呂と焼き石湯、山中の贋金づくり、箕作りの集団や天幕部落、岩窟に暮らした非定住民、猿と猟師、氷室と風穴、産屋、墓制、安倍晴明の墓、狐憑きと犬神など、各地の村に残る習俗と伝承を、聞き取りと文献の両面からたどる。全十三章で、昭和三十年前後の高知市での見聞から説き起こし、「おわりに」では別の出版社で刊行が見送られた経緯を記す。