墓前に座っていた戦死の息子
どんな伝承か
明治、日露戦争のさなかの話である。茨城県鹿島郡諏訪村安房のある老婆は、出征した息子の戦死の公報を受け、遺骨を迎えて村葬を営み、立派な墓も建てた。ところが命日に墓参りに行くと、墓の前に死んだはずの息子が座っていた。息子は、自分は死んだのだからもうここへは帰らないと言い、引き止める老婆を振り切って姿を消した。生きていたのか、生き返ったのか、霊だったのか目の迷いだったのか分からないまま、息子はついに帰らなかった。老婆はこの話を固く秘め、そっと打ち明けたのは太平洋戦争が終わってからだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。