亡夫が告げた戸棚裏の十五円
どんな伝承か
明治十三年五月のこと。神田区松富町に住む松浦おぶんは夫に先立たれ、位牌に向かって念仏を唱えるのを何よりの楽しみにしていた。ある夜、亡き夫が枕元に立ち、まさかのときの用心にと十五円を戸棚の破れ目の裏に隠してあるから、取り出して商いの元手にせよと告げた。翌朝早く起きて裏板を剥がすと、襤褸に包まれた銀貨十五円が出てきた。おぶんは驚き喜んだが、夫の優しい心根が思い返されてならず、金包みを抱いて涙にくれるうち、いつしか心を病んでしまったという。
原典より
私の叔母が先日(昭和五十七年・註/松谷)亡くなりまして、入院の初め頃は、死んだ者の顔が並んで崖の下に居て「来るな、来るな」と言っていて、自分は崖の上で必死につかまっていたと、夢の中の話をしていました。—— 現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。