雪の一本道で消えた角巻の女
どんな伝承か
入生田の高橋の伊藤亀吉の妻は早くに死んでしまった。死去したのは初秋のことである。ある冬の日、付近の某が所用あって橋本へやって来たが、帰りは夜の十時頃になった。雪道をとぼとぼ歩いていると、角巻姿の年増女に出会った。それは亀吉の妻そっくりで、すれすれに来たので言葉を交わそうと思ったが、考えてみれば死んだはずでもうこの世にいない。そう思うと急に恐ろしくなった。それでも女の行先を見ようと振り返ると、今すれちがったばかりの女の姿はもうなかった。雪道は一本道で歩道もないはずだと身ぶるいし、家に辿りついた時には物を言うこともできないほどだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。