真夜中に訪れた仙太爺さま
どんな伝承か
昭和十八年、夏の真夜中の二時ごろ、善爺さまが小用に起きた。勝手とニワの仕切り戸をあけたとたん、顔のない坊主頭がいたので、驚いて二、三歩退いた。声に驚いた息子夫婦が起き出して見ると、上がりくちに後ろ向きで腰かけているのは仙太爺さんで、寝巻姿で帯もしめていない。「爺さま、何用で来た」と問えば、「太郎衆に米つきユイを借りていたから、ユイ返しに来た」と言う。太郎は三十五年も前に死んだと言っても信じない。「お前さんは誰だ」「善蔵だ」と答えると、ようやく目が覚めたように腰を上げ、たどたどしい足どりで自分の隠居家へ帰って行った。仙太と太郎は五十年前、よくユイで働いた友だち同士であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』を小話単位で全699話収録。死の知らせ・予兆、あの世(地獄・極楽)へ行った話、死者からのサイン、生まれかわりなど、生死とあの世にまつわる現代の民話を全国から採集し地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明606話・市区町村判明489話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。