伊織の命を吸いかけた紫ずくめの女
どんな伝承か
『西鶴諸国はなし』より。筑前国袖の湊に伊織という武士がいた。表向きは武士だが出家心で、深山のような離室に籠り、明け暮れ歌道に凝っていた。冬の寒い夜、窓辺で優しい声が「伊織さま」と呼ぶ。見れば紫ずくめの着物を着た美しい若い女で、伊織は心を奪われ契りを結んだ。以後夜ごと通ううちに次第に痩せ、医者に過淫の腎虚と診られ、これは人の血を吸う「紫女」だから早く切り捨てよと勧められた。伊織が待ち構えて抜き打ちに斬りつけると、女は逃げて立花山の木深い洞穴へ入った。その後も紫女は浅ましい姿を見せたので、道心者を集めて弔ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
講座日本風俗史別巻 妖異風俗((講座日本風俗史 別巻)・日本風俗史・民俗)
『講座日本風俗史別巻 妖異風俗』は、『講座日本風俗史』の別巻として、複数の執筆者が妖しく異様な風俗を論じた巻である。淫祠と性の祭礼、戦後の新興宗教、性にまつわる迷信、妖術・忍術・奇術、憑きものと特殊家系、心霊術と催眠術、異類との婚姻、性と怪異の関わりを、古典の随筆や各地の報告、事件の記録から取り上げる。九つの章に分け、終章「日本妖異風土記」では関東から九州・沖縄までの怪異譚を地方別・県別に掲げる。