深夜の国電で名刺を出した女
どんな伝承か
心霊を研究している関係で、著者は新興宗教の動きに常に目を配っていた。ある寒い晩、用事で国分寺駅まで出向き、十時二十分頃の国電で信濃町へ帰る途中のことである。高円寺から目を引くほど美しい奥さま風の女が乗ってきて、がら空きなのにわざわざ隣へ座った。当時は国電に奥さん風の客引きが出ると新聞記者が騒いでいたので、著者は身構えて様子を見ていた。女はやさしい笑顔で帰りが遅いことをねぎらい、子どものこと、悩みごとの有無を尋ね、ぜひ話を聞かせてほしいと言って帯の間から名刺を出した。それは霊友会支部のもので、女は笹沼みね子といった。勧誘のための客引きだったのである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私の心霊術(長田幹彦・1955年(昭和30年))
『私の心霊術』は、長田幹彦が昭和三十年に著した心霊研究の随筆集である。死後に残る霊や地獄・極楽をめぐる考えを述べ、熊本の家系や安達謙蔵との交わり、東京放送局の文芸顧問だったころの回想、霊友会など戦後の新興宗教への批判、前著『霊界』への反響と自らの信仰を語る。「心霊科学の来世観」「霊界の構造」「ぼくの信仰」などの章からなり、末章「ある霊媒の生態」では霊媒服部との実験とそのトリックの顛末を描く。