清国人にだけ見える長崎の幽霊
どんな伝承か
嘉永年間の中島広足の随筆『樅のしづ枝』によると、清国の人は死んで幽霊となって出ることを尊いこととし、幽霊にさえなれない人をひどく見下すという。長崎の清国人の館の中にも幽霊堂という堂があり、幽霊祭と称して幽霊餅などの餅を搗いて供えていた。ところがその霊は日本人の目にはまったく見えず、親しく寝起きをともにする遊女たちでさえ気づかないのに、清国の人の目には面影が見え、沓の音まで聞こえるのだという。
原典より
したしく起臥する遊女などもしらぬを、彼國人の目には、おもかげ見えて、沓音なども聞ゆといへり—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。