蓑ヶ坂の沼から引き上げた大蛇
どんな伝承か
昔、不来方(今の盛岡)に福士勢州と玉山和州という侍がいた。ある年、両人連れ立って年始の御殿へと三戸へ向かう途中、三戸近くの蓑ヶ坂という所にさしかかると、二人の乗馬が急に腹を病み出し、苦しがってその辺を転げ回った。通りかかった巫女に無理やり祈らせると、この坂の下の沼の底に千年住む大蛇がいて、頭の上を乗馬のまま通り過ぎられた無念さに現れたのだという。玉山は激怒して下帯一本になり沼へ飛び込み、沼底の臥木に綱をかけ、百人余りを集めて引き上げさせた。ただの朽木に見えたが、三戸へ運んで翌朝見ると、まことにその態恐ろしき大蛇となっていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
農民俚譚(佐々木喜善(著)・本山桂川(編)・佐々木喜善・東北民俗・1934年(昭和9年))
『農民俚譚』は、佐々木喜善が書きためた昔話や伝説を、その没後に本山桂川が編んで昭和九年に刊行した本である。陸中の和賀郡・岩手郡・胆沢郡で集めた炭焼長者や瘤取爺などの昔話に、河童・山男・山女・人柱・蛇にまつわる伝説、地蔵の話、異類に嫁ぐ女の話を記した「縁女綺聞」、紫波郡の口碑による「鳥蟲木石伝」などを収める。郡ごとの昔話には大正十三年の日付の前書きが付き、巻末に本山桂川の追想「佐佐木喜善君の遺業と其晩年」を置く。