山猫に嫁いだ網地島の花嫁
どんな伝承か
陸前国牡鹿郡鮎川村のうち、牡鹿半島から約三里の海上にある網地島には、昔から主の山猫が棲むと伝え、島では絶対に犬を飼わなかった。外から犬が紛れ込むと海上が大荒れになって害があるのが慣例だという。山猫に縁づく運命に生まれた女がときどきあるともいう。同島長渡の部落の阿部某の家で、二年ばかり前、島のある家から新妻を迎えた祝儀の夜、正装の花嫁が突然掻き消えた。翌日、家から程遠からぬ山中の岩蔭に、顔色蒼白で茫然と坐っているのを見つけたが、連れ帰ってもまた山へ逃げ、堅く言い交わした男があるから死んでも帰らぬと言う。家人は山上に小屋を建てて住まわせ、毎日三度の食事を浜から運んだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・大正・昭和(東北民俗))
『遠野物語』の語り手・佐々木喜善が大正昭和期に郷里岩手で採集した東北の昔話・伝説の集成。冒頭の『奥州のザシキワラシの話』では、旧家の座敷に出没し家の盛衰を司るザシキワラシの諸相を集める。『江刺郡昔話』『紫波郡昔話』に続き、『東奥異聞』では不思議な縁女の話・黄金の牛・磐司磐三郎・千曳石・赤子抱き・偽汽車など奇譚を収める。