村を巡る戸回り如来と子安観音
どんな伝承か
今から八十年ほど昔の初夏、農家の人が田の水回りに出ると、いつしか足は川べりへ向いていた。川下に気品のある女が手招きしていたが、近づくと姿は消え、はるか川口の方に浮き沈みするものがある。飛び込んで抱き上げると、六歳のわが子であった。人々は不思議な女は観音様に違いないと語り伝え、子安観音と呼んで安産の神とした。また富岡川口近くの小浜橋の南たもとには正福院という寺があり、明治の中頃に火災で廃寺となった。運び出された如来は観音堂に祭られたが、夢枕に立って村中を背負われて回りたいと告げたため、小浜の村を一軒ずつ回る戸回り如来となったという。
原典より
今から八十年程昔、初夏の頃のことである。—— 富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史)
『富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説』は、福島県富岡町の町史のうち考古・民俗を扱う巻で、ここにはその第九章「昔話と伝説」が収められている。昔話の節は昭和五十八年五月の福島県教育委員会による文化財基礎調査のまとめに町の既刊の話集から数編を加えたもので、麓山の白蛇や、大原の大吉・金平六など名のある狐の話が目立つ。伝説の節には朝賀城哀話、仏浜、戊辰戦争、鉱山、北風薬師などを収め、各話に伝承者の地区と名を添える。