大乗院の差図で憑いた狐の届書
どんな伝承か
太田蜀山人の『半日閑話』に、狐憑きの娘に関する一件書類が載っている。文政元年五月二十一日に差し出された届書で、御普請役町田相之助の妹あいは四月二日から観心の様子となった。よくよく糺してみると、大久保新田の当山修験大乗院に使われている狐だという。なぜ乗り移ったのかと尋ねると、祈祷を頼まれて布施料を得たいと思い、大乗院の差図によって乗り移ったと答えた。触頭の鳳閣寺を通じて大乗院を呼び出し、親類立ち会いで問答させたところ、娘は同じことを述べ、大乗院は一言も申し開きができず、組合の者たちも赤面した。大乗院らが祈念すると一度は快くなったが晦日から再発し、重ねて祈念しても立ち去る様子はなく全快しなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年))
『科学的教養』は、小泉丹が昭和二十三年に春秋社から刊行した、科学的なものの見方を説く評論である。精確さ・合理性・実証の面から科学的と非科学的の違いを論じ、河童の記録や呪いの効き目、『耳袋』の怪異談、狐憑き、幽霊・化物屋敷、人魂・鬼火・怪火を例に、日本人のものの考え方を検討する。昭和十七年に書いた前版を戦後に改稿したもので、序と起序に続く七章から成り、旧稿の終わりの二章を除いたと序に記す。