陀々堂の鬼走りと三匹の鬼
どんな伝承か
奈良県五條市大津にある念仏寺の陀々堂では、修正会の締めくくりの作法として「鬼走り」と呼ばれる火の行事が営まれる。正月十四日の夜、阿弥陀如来の面を着けた先導役が燃える松明で宙に水の字を描くと、斧を手にした赤面の父鬼、槌を持つ青面の母鬼、箒木を携えた茶面の子鬼が次々に現れ、大きな松明を抱えて正面と左右の戸口で三度ずつ振り回す。炎が堂を焦がすほど上がるなか鬼は跳ね踊り、火が弱まると鬼の井戸へ退いて水で火を消す。鬼の衣装に巻いた紙縒は厄除けになるとして参詣者が奪いあい、鬼が暮らしを守る善い神とされていることがよくわかる行事である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・1986年(昭和61年))
『暮しの中の妖怪たち』は、岩井宏實が昭和六十一年に著した妖怪の概説書である。鬼・天狗・河童から山姥、産女、雪女、怪火、ザシキワラシ、化け猫、狐狸、幽霊まで、各地の伝承や古典・絵画に見える妖怪を一つずつ取り上げ、その姿と仕業を説く。第I章で個々の妖怪を紹介し、第II章で妖怪の性格、出現の空間と時、正体を論じ、巻末に著者が資料とした妖怪の本の一覧とあとがきを置く。