餅を盗んで行人様になれぬ男
どんな伝承か
新野に伝わる、ぬすっと行人と呼ばれる話。荒木の行人様が入定してミイラになった十年後、自分も修行して同じように行人様になろうと決心した男がいた。食を断って行に励んでいたが、ある日、通りかかった農家から餅をつく音が聞こえてきて、どうにも我慢ができなくなり、とうとう餅を盗んで食べてしまう。しかし断食の続いた体には餅をこなす力がなく、修行もむなしく死んでしまった。この男は行人様にはなれなかったのである。村人は気の毒に思って葬ろうとしたが、すでにミイラのようになった姿を見て、岩屋に納めて密封しておけば本物のミイラになるのではないかと考え、大きな岩をくりぬいて納めた。それでもミイラにはならず、白骨になってしまったという。餅ではなく月経小屋の飯を盗み食いしたのだという別伝もある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新野民俗誌稿――長野県下伊那郡阿南町(口頭伝承)(湯田朝子(第十五章「口頭伝承」))
『新野民俗誌稿――長野県下伊那郡阿南町(口頭伝承)』は、阿南町新野の民俗誌稿のうち、湯田朝子がまとめた第十五章「口頭伝承」の報告である。昭和五十三年一月に新野の古老五人から採話した昔話・伝説・ことわざ・なぞを収め、昔話には日本昔話名彙・日本昔話集成の話型を注し、伝説は信仰的・歴史的・文芸的の三つに分けて話者の名と生年を添える。昔話の語り始めと語り納めの形式や語りの場の変化も記し、ことわざとなぞで結ぶ。