美濃大豆村の重五郎が鉄砲の妙を得る
どんな伝承か
文化三年、美濃国郡上郡大豆村に重五郎という十四、五歳の少年がいた。ある日、裏の風呂に入っていたところ天狗にさらわれ、まず自宅の入口にある三囲ほどの松の梢へ連れて行かれた。この松は日ごろから天狗が来ると言い伝えられ、枝打ちもされない木であった。それから四十里ほど先の十畳敷ほどもある松の木の上へ運ばれると、大勢の天狗が集まって酒宴を開いており、さらに方々を連れ回されて大名の祝儀の席で馳走にもあずかったが、誰にも咎められなかったという。三年ののち鉄砲の妙を得て帰ってきた重五郎は、飛ぶ鳥を撃っても外れぬ百発百中の腕前となり猟師になったが、あるとき誤って成村の雁の池の大蛇を撃ってしまい、祟りを恐れて書置きを残し姿を消したという(想山著聞奇集)。
原典より
年十四五の時裏にて風呂に入居て天狗にこられ、先づ自分の家の入口にある三圍程の松の木の梢に行きたりこ。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。