大龍寺の祖龍長老に天狗が憑く
どんな伝承か
下総国山梨村の大龍寺の祖龍長老は、寛永十五年の冬に江湖会を開くほど法門に通じていたが、そのぶん慢心が強かった。半夏のころ、老僧を二、三人呼んで自分の顔はどう見えるかと尋ね、いつもと同じだと答えると、お前たちには分からぬと言う。見ると鼻は八寸ほどに伸び、口は耳の付け根まで裂けていた。杉の木の下で呼ぶ者がいると躍り上がって狂うのを、皆で押さえて経を読み、理趣分の巻を口に押し込むとすんなり入った。強く祈ると山々の天狗が名乗って退いた。門前の人々は客殿の棟に火の手を見て駆けつけたが、火事はなかった。七日七夜祈ってようやく元に戻ったという因果物語の話。
原典より
大衆強く祈りければ、山々の天狗名乗りて退く。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。