豊前小倉で竹垣を登った小蛇が龍となる
どんな伝承か
寛永のころ、豊前国小倉の侍が、夏の暑さに庭へ水を打たせて縁に腰かけ涼んでいた。三間ほど先の竹垣を一尺ばかりの小蛇が登り、竹の先へ五、六寸上がっては落ち、また登ることを四、五度繰り返した。やがて辺りがにわかに暗くなり風雨が激しくなって、蛇は竹の先から宙へ離れて昇っていくように見えた。黒雲が覆って雨風がひどくなったので侍は戸を閉めて中に入った。雨風がやむと近所から使いが来て、あなたの屋敷から今しがた龍が上がったが家内に障りはないかと尋ねた。近所の者は、屋敷の上を雲が覆い、一間ほどのものが昇りながら次第に大きくなって地上十間ほどまで上がったと語ったという。近世拾遺物語の話。
原典より
しばらく有りて雨風やみしこき、近隣より使をつかはして、足下のやしきよりたいいま龍あがりぬ、家内別條なきやこ問ふ。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。