袖曳坂の怪
どんな伝承か
埼玉県毛塚に住む高利貸しの利右衛門は、冬の夜に遠方から帰る途中、坂道で浪人風の男に襲われた。男は利右衛門を一太刀で斬り殺し、懐中の財布を奪って去った。翌朝、村人が利右衛門の遺体を発見したが、驚くべきことに彼の右手には相手の黒木綿の袖が握られていた。それ以降、この坂を夜間に通る者は、後ろから袖を引かれる現象を経験するようになった。村人たちは利右衛門の怨霊の仕業と信じ、この坂を袖曳坂と呼ぶようになったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東松山市史 資料編 第5巻(民俗編)――伝説(東松山市(編)・東松山市史)
『東松山市史 資料編 第5巻(民俗編)――伝説』は、東松山市が編んだ市史の民俗編のうち、伝説の部分を収めたものである。岩殿山の悪龍退治や比企一族の落人の話、永福寺の河童の詫証文、箭弓神社の銭絵馬、狐に化かされた話、神かくし、雪女郎など、市内の寺社・坂・沼・塚にまつわる四十六話を載せる。各話は会話を交えた語り口に書き直され、多くの話の末尾に〔 〕で由緒や文献上の注を添える。