戸を叩いて姿を隠すカサトリの夜
どんな伝承か
古川甫の『昔の瀬谷』によれば、いまは横浜市に属する瀬谷では、正月十四日の晩にカサトリという行事があった。子どもや若い者が人参や大根や竹で細工をこしらえ、盆に載せて十時ごろ家々の戸を叩き、軒先に置いて身を隠す。家の中から誰かが受け取り、代わりに銭を盆に載せて外へ出しておくのである。この種の小正月の訪問行事は東北から九州まで広く見られ、呼び名もホトホト、コトコト、バタバタとさまざまだが、カセドリという名は東北や九州にあって関東では例がないとされてきた。カセとはカサブタの類を指す語で、鬼が怠け者の脛の火斑を剥いでいくというナマハゲの系統に連なる。それが瀬谷では大正の初めまで行われていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
神奈川県の歴史 県史講座要録――伝説と昔話(中村亮雄(「伝説と昔話」)・神奈川県の歴史)
『神奈川県の歴史 県史講座要録――伝説と昔話』は、県史講座要録の県下の民俗篇に収められた、中村亮雄による講述「伝説と昔話」である。柳田国男の白米城伝説の研究を手がかりに、三浦半島の二反ヶ城、鶴見の見返し坂、湯河原の石橋山合戦の伝承など県内の伝説を取り上げ、藤沢・津久井・平塚などの昔話や笑話、世間話を紹介する。「はじめに」「伝説」「昔話」「あとがき」の四節からなり、昔話は本格昔話・派生昔話・笑話の別に沿って類話を並べる。