水を飲んで帰った平戸の人魂
どんな伝承か
人魂や火の玉は、体を離れた霊魂の姿だと長く信じられてきた。肥前平戸に残る記録にも、そうした一例がある。喉が渇いたとこぼしながら居眠りをはじめた下僕の鼻から、火の玉がすっと抜け出し、岸辺まで飛んで水を飲むと、また戻ってきた。ほどなく目を覚ました下僕は、夢の中で水を飲んだので喉の渇きがおさまった、と何も知らずに語ったという。眠っているあいだに魂が肉体を抜け出して動きまわるという古い考え方を、よく示す話である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語)
『日本人物語5――秘められた世界』は、日本人の暮らしの奥にある秘められた信仰や伝承を扱った叢書『日本人物語』の一冊である。境の神や通過儀礼を論じる序論に続き、入らず山や隠れ里、竜宮、平家谷、埋蔵金、生まれ代わり、あの世を見た話、魔法使い、生霊、秘密結社、狐憑きなどを、伝承と昭和三十年代までの新聞記事・見聞を織りまぜて述べる。序論「生活文化の秘密性――はじめに」の後、「奇蹟」「不気味な神々」などの区分の下に短い節を並べる。