経に変わった蛸と母を救った僧
どんな伝承か
京の町に禅弘という僧が年老いた母と暮らしていた。母は病に伏し、死ぬ前に蛸が食べたいと言った。僧の身で魚や肉を口にすることは禁じられていたが、病の母のためなら仏も許してくださるだろうと考え、禅弘は蛸を買って帰った。ところが寺の前で意地の悪い者に見とがめられ、包みを開けさせられる。すると中の蛸は大乗妙典の経に変わっていた。その日から母は好きな蛸を思うさま食べ、病は日に日に軽くなった。禅弘は薬師如来の加護に違いないと考え、寺を蛸薬師と呼ぶようにしたという。
原典より
〈柳田―「蛸薬師」〉昔、京の町に、禅弘さんというお坊さんと、年とったお母さんが暮していました。—— 日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第8巻』は、黄地百合子・酒向伸行・田中久夫が滋賀・京都・兵庫の三府県を分担して執筆し、福田晃がまとめた伝説集である。丹波の湖を神々が切り開いた国造りの話、神同士の争い、英雄や長者の盛衰、蛇と人の話、魚・鳥・石・塚・祠堂の由来などを、各地の口承や記載資料から集める。第一部「文化叙事伝説」と第二部「自然説明伝説」に分け、各話を例話・類話・文献・参考の順に並べ、高木敏雄・柳田国男の対応する話名を付す。