雌雄の雁を葬って出家した中野の男
どんな伝承か
文明年間、この里の人が妻を失ってから農業をやめ、時々山野へ出て猟をしていた。ある時郊外で、池畔から飛び立つ雁の群れの一羽を射落とすと、首のない雄雁が翼を射抜かれて草の上に落ちていた。怪しみながら家の裏の畑へ捨てておくと、翌日から毎日のように一羽の雁が来て、哀れな声で啼き悲しむ。七日ほど続いたので雄雁の妻だろうと覚り、待ち構えて射落としてみると、その雁は先に射た雄雁の首を左の翼に深く抱きしめて死んでいた。鳥の情愛の深さに悔悟の涙を流した主は、その場で弓を折り矢を摧いて出家し、雌雄の雁を合わせ葬って塚を築いたという。河陽郡邑誌は射手を若江権頭とし、のち勝尾寺に入って勝尾数如上人になったと伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。