桟道から落ちた琵琶法師と琵琶崖
どんな伝承か
平安中期から鎌倉期にかけて熊野三山の信仰が流行し、山中越の熊野街道は白衣の道者の往来で賑わっていた。そのなかに琵琶を背負った若い法師がいた。生まれながらに盲目で、平家琵琶を習い、招かれては平家物語を語ってわずかに生計をたてていたが、熊野本宮に参り、証誠殿の広庭で終夜平家の一曲を奉納したいと願って旅に出た。雨山の山麓にさしかかると、桟道で補強した険阻な箇所がある。杖を頼りに進んだが、桟道の半ばで谷底から吹き上げる一陣の旋風によろめき、杖もろとも踏み外して十尺の断崖から川中へ落ちた。通りかかった道者が見下ろすと、川原の岩の間に血に染まった法師が横たわり、背負っていた琵琶が崖の途中の灌木に引っかかっていたという。以来、滝の水音が琵琶の音に似ると伝え、琵琶ヶ岸懸と称するようになった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。