開けずの箱に納められた人形の小僧
どんな伝承か
上房郡賀陽町の吉川にある八幡宮には、誰が何と言っても開けてはならない箱があるという。昔、村に社を建てることになり、名主たちは釘を一本も使わないと評判の飛騨の名工を招いた。ところが現れたのは弟子を一人だけ連れた身軽な姿で、村人は落胆した。翌朝、工は身を清めて大木を抱えたまま小屋にこもり、道具の音だけが響く。やがて見慣れぬ小僧が一人で目もくらむ速さで働きはじめたが、よく見るとその目だけはまったく動かない。社は期日どおりに仕上がり、工は白木の長持を残し、神意のこもったものが入っているから神の側に置けと言い残して帰った。中にいたのは、工が初日の朝に作った人形だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第10巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第10巻』は、全国の伝説を型ごとに分けて集めた叢書の一巻である。岡山・広島・山口の三県を伝承地とし、蘇民将来、吉備津彦と温羅、厚狭の寝太郎、化け猫、河童駒引き、夜泣き石、姥棄て山などの伝説を、聞き書きや市町村誌、民話集から採って収める。「文化叙事伝説」と「自然説明伝説」の部に分けて番号順に並べ、各話には伝承地と本文のあとに〔類話〕と近世の地誌などを引く〔文献〕を添える。