釜の蓋に乗った五味家の妻女
どんな伝承か
二百七、八十年ほど前のこと、藤田村浅原区に五味四郎右衛門という旧家があった。その妻女は毎年のように釜無川が起こす水害を除きたいと心を痛め、ある暴風雨の日に意を決して家を出た。ただ一つの願いだといって台所の釜の蓋を受け取り、風雨の中を東へ走って荒れ狂う川へ蓋を投げ入れ、その上へひらりと飛び乗った。見る間に妻女は蛇身と化し、蓋とともに怒濤の上を去っていった。以後水害はやみ、沿岸の者は恐れてしばらく釜を用いず、川を釜無川と呼び、蛇を意味する方言アザから土地を浅原と呼ぶようになったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。