慈雲寺で正体を現した千年のむじな
どんな伝承か
鎌倉の建長寺の使僧が甲斐の寺々を巡視する途中、慈雲寺に立ち寄るという知らせが届いた。寺では急いでごちそうを整えたが、使僧は給仕はいらぬから下がれと言う。不審に思って戸の隙間から覗くと、皿も丼も茶碗も中身をすべて膳にあけ、あたりを窺いながら平らげていた。膳を下げに行った者が記念に一筆をと頼むと、口に筆をくわえて何やら書いている。やがて帰るというので見送りの支度をしたところ、一匹の犬が突然その足に噛みつき、続いて喉笛に食らいついて使僧は息絶えた。まもなく体は黒ずみ、耳が立ち口が尖って、千年を経たむじなの姿に変わったという。寺ではこれを焼き捨てたと伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。