八ヶ岳の折れた頭と美し森の由来
どんな伝承か
私たちの先祖がまだ直立して歩けなかったころ、日本は一面の大平原で、甲州はその真ん中にあったという。ある夜、各所に音もなく皺が寄って高まり、足もとからは煙とともに火と泥が噴き出して積み上がった。こうして生まれた山のうち、とりわけ高かったのが八ヶ岳と富士山である。二つは背比べを始めたが、先に生まれた八ヶ岳に富士は追いつけない。得意になった八ヶ岳は天竺まで頭を届かせ、なお伸びた拍子に頭の三分の一を折ってしまった。悔し涙は滝となって南の縁を破り流れ、鞍馬山から来た大天狗が赤岳の頂に社を立てさせる。折れた頭を祭った森を斎し森、のちに美し森と呼ぶという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。