甑島から塩を運んだ泰平寺の大黒天
どんな伝承か
『三国名勝図会』によれば、泰平寺の塩大黒天にはこんな由来がある。昔、寺の塩が底をついたとき、一人の小僧が戯れに大黒天へ向かい、ここに空しく座っているより塩でも持ってきてくれと言った。数日後、大黒像が壇上から消え、皆で捜したが見つからない。ある日、甑島の人々が商船に塩を積んで寺へ運び入れた。訊ねると、泰平寺の僧が島へ渡って塩の勧進を頼んだので載せてきた、その僧はもう寺へ帰っていると答える。住持が怪しんで安置の場所を見ると像はいつもどおりに立っており、その足もとは泥に染まり、壇の上には足跡が残っていた。以来これを塩大黒と呼び、参詣する者が絶えないという。
原典より
塩大黒天林立教師、当寺にあり、往昔嘗て当寺塩乏しく絶へしかば、一小僧戯れに、比大黒天に向て日、大黒殿、今寺内に塩なし、爰に空しく安坐せんより、塩にても持ち来れと、其後数日大黒像壇上に見へず、衆人探索せしかども、得ざりしが…—— 日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第14巻』は、熊本・宮崎・鹿児島の三県に伝わる伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。阿蘇の大鯰や海幸山幸など神話に連なる話から、為朝・景清・人丸姫の伝承、長者や河童・狐の話、池の主や大蜘蛛退治、狩人と犬の話までを収める。各項目は口承を重んじた例話を冒頭に据え、梗概にした類話と、『肥後国誌』など近世以後の史料を原文で引く文献を続け、全体を文化叙事伝説と自然説明伝説の部に分ける。