運慶の観音に挑んだ千亀の痣
どんな伝承か
宝満寺のあった向川原に、昔、千亀という際立った美女がいて、これにまさる娘はいまいと噂されていた。ちょうどそのころ、運慶一代の名作と称される観音像が宝満寺へ迎えられる。人々は像の美しさを見て、いかに千亀でもかなうまいと言い合った。それを耳にした両親は娘可愛さのあまり、ある夜こっそり観音像を持ち出し、青松葉の煙でいぶして汚した。ところが夜が明けてみると像はいっそう美しく輝き、代わりに千亀の顔には一晩で醜い痣が浮き、片方の足だけが大きくなっていた。それを隠すために娘は裾の長い着物を着るようになり、志布志では笹箒がいらぬ、花の千亀が裾で掃くと唄われたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第14巻』は、熊本・宮崎・鹿児島の三県に伝わる伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。阿蘇の大鯰や海幸山幸など神話に連なる話から、為朝・景清・人丸姫の伝承、長者や河童・狐の話、池の主や大蜘蛛退治、狩人と犬の話までを収める。各項目は口承を重んじた例話を冒頭に据え、梗概にした類話と、『肥後国誌』など近世以後の史料を原文で引く文献を続け、全体を文化叙事伝説と自然説明伝説の部に分ける。