一番鶏を早めて鬼を欺いた為朝
どんな伝承か
昔、鎮西八郎為朝が雁回山にいたころ、今の陣内村城尾の地に城を築いて陣屋を構えていた。ある時、爺と媼が一人の美しい娘を前にして泣いていた。三人いた娘のうち二人は毎夜現れる鬼に連れ去られ、今夜はこの娘の番だという。為朝は鬼の首領を呼び、今宵一番鶏までにこの池をこれだけ掘れたら娘を渡そうと約束した。鬼どもは大いに喜んで一族郎党を集めて働き、夜中のうちに工事を終えようとした。驚いた為朝は、かねて用意の鶏の塒の竹の節を取り去って筒に湯を注いだ。脚が温もった鶏は暁が近いと思って高らかに鳴き、他の鶏もつられて鳴きはじめた。落胆した鬼どもは仕事がはかどらず、為朝は娘を安全に連れ帰ったという。
原典より
<柳田――「鬼堤」>昔鎮西八郎為朝が雁回山に居たる時のことなり。—— 日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第14巻』は、熊本・宮崎・鹿児島の三県に伝わる伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。阿蘇の大鯰や海幸山幸など神話に連なる話から、為朝・景清・人丸姫の伝承、長者や河童・狐の話、池の主や大蜘蛛退治、狩人と犬の話までを収める。各項目は口承を重んじた例話を冒頭に据え、梗概にした類話と、『肥後国誌』など近世以後の史料を原文で引く文献を続け、全体を文化叙事伝説と自然説明伝説の部に分ける。