肥溜の風呂と蕎麦畑の川渡り
どんな伝承か
吹上町北新宿に伝わる狐の話が二つ。昔、ある男が貰い風呂をしているつもりで「結構な湯加減、焚かなくても結構」と手拭を禿頭に乗せてひとり喜んでいた。通りかかった村人が振り返ると、友達の某が道端の肥溜の中でしきりに背をさすっていた。もう一つは明治初年のこと。婚礼に招かれてご馳走になった某が帰り道で迷い、川を渡らねば新宿に戻れないと、草鞋や脚絆を脱ぎ、土産の包みを首に巻いて浅瀬を渡り始めた。真ん中に進むほど深くなり「オー深い」と一晩中言っていたが、夜が明けてみれば蕎麦の花盛りの畑を行きつ戻りつしていたのだった。土産の包みは中身が抜き取られて空の風呂敷になっていたという。
原典より
昔、ある男が、貰い風呂をしている積りで、「ああ結構、結構な湯加減、焚かなくても結構です」といって、手拭を禿頭に乗せてひとりで喜んでいる。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。