天女の糸が導いた明星院の井戸
どんな伝承か
桶川市倉田の明星院には明星の井がある。『新編武蔵風土記稿』によれば、開山の隆尊がこの地に庵を結んで百日間求聞持の法を修したとき、明星がこの井戸に影向したのが名の由来で、境内の井戸は写しで本物は本堂の床下にあり、寺の院号もこの井戸にちなむという。鎌倉のころの伝えでは、夜明けの星が上平村の隣あたりから飛び出し、紫の雲の中に立つ天女の掌から一筋の糸が垂れていた。村人が糸をたどると明星院の井戸に行き着き、井戸端で隆尊和尚が経を誦していた。和尚は、ふしぎな楽の音を追って井戸端で天女を見ると、光る物が井戸から空へ飛び出し、天女も昇っていったと語った。以来この寺は明星院と呼ばれ、井戸は柵で囲われたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。