嘉陵紀行の椰子の盃に見入る老婆
どんな伝承か
椰子の実の日本語はいつの昔からともなくヤシホであった。器物として利用されたのも年久しいことであろうに、近世になるまで依然として一種の珍奇であった。江戸叢書にも採録された『嘉陵紀行』は、村尾嘉陵という江戸の小吏が郊外の各処へ日帰りの旅をした日記を集めたもので、文化から文政にかけての十数年のことである。ある日、新井の薬師から江古田の村あたりを歩いて、路傍の休み茶屋の豆腐屋を兼ねた店先に腰を掛けると、その家の老婆がしきりに嘉陵の携えていたヤシホの盃に目を留め、名を尋ね知っていよいよ珍しがり、やがて奥へ入って一合ばかりの酒を求めて来て、召し上がった後で私にもその盃でいただかせて下さい、と言ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第1巻(柳田国男・定本柳田国男集)
柳田国男編『定本柳田国男集 第1巻』を全451話・伝説(1見出し=1話)単位で収録(緒言・序・名義・解説・和歌・注は除外/内包)。所在地(郡村区・社寺)を付して集成。