本を貸さぬ鍋屋と未完の三河志
どんな伝承か
柳田国男は三河を歩き、蔵書家たちのその後を書きとめている。西尾には、何と言っても本を貸さないので知られた鍋屋という家があった。同じ幡豆郡の寺津には逆に貸しすぎて多くを失った渡邊政香がいて、三河志という大著を未完のまま遺している。その三河志は後に鍋屋の手へ渡り、もう見られまいと思っていたところ、西尾の小学校に写本二部と一緒に置かれていたという。柳田は、著者は死後こそ一人でも多くの学者に読ませ、必要なら補訂させたかったろうにと書き、この辺りの善人たちは古書がなぜ貴いかを解していないと嘆いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。