海に臨む段丘に広がる槲の純林
どんな伝承か
木の葉に飯を盛った簡素の世から、槲は人生と濃かな親しみを持っていたが、やがて初夏の節供に葉を採るだけになって槲の山も衰微した。ところが岩手県では閉伊郡の北端に、普代の官有林というのが海に臨む段丘の上にあって、広大な槲林であった。六七年前に通った頃は世間の景気に誘われて売り払おうとしていたから、今は杉や檜に変わったかも知れぬ。さらに北の外南部の東通村には、人が忘れたかと思う純林が残り、思いもよらぬ珍しい海岸の風景をなしていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。