柳田少年、頬冠りの男に攫われる
どんな伝承か
著者が七つの年のこと。生まれた村は県道に沿った町筋で、近くの山は丘ほどだが西に川筋が通り奥は深く、天狗の話の多い土地だった。ある秋の夜八時過ぎ、筋向かいの家に湯をもらいに行き、母より一足先に戸口を出ると、頬かむりをした屈強な男が横から現れて抱えあげ、走り出した。恐ろしさのあまり声も出なかったが、男は家の門まで来るとくぐり戸の脇に降ろして姿を消した。近所の若者のいたずらで後に見当もついたが、当人は母の怒りを恐れてか知らぬと言い張り、事件は不可思議のまま終わった。著者は自分も隠されやすい子だったと振り返る。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。