吾妻橋の板に吸い込まれた娘
どんな伝承か
飯田豊太郎の『怪談千一夜』に「橋の上」という一話がある。用人だった父を亡くして身寄りをなくした娘が屋敷に引き取られると、主人が心を寄せて夜ごと言い寄るようになった。逃げ場のない娘は日を切って返事を延ばし、その期日が来た朝、外出したいと願い出る。疑い深い主人がひそかに後をつけていくと、娘は父が急死したという吾妻橋の上まで来て、ふわりと橋板に吸い込まれるように姿を消してしまった。筆者は、生殺与奪を握られた身にはこう消えるほかなかったのだろうと評している。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、終章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。