妻が電車に置き忘れた呪いの藁人形
どんな伝承か
著者が一九七六年の夏、高知県香美郡物部村の上韮生川の川筋に散在する家々を民俗調査で歩き回っていたときに手に入れた、呪い用の藁人形をめぐる話。人形は書斎の押入れにしまわれていたが、正月早々、妻が友人に見せるため無断で持ち出し、自然食サークルの新年会の会場へ運んだ。酒宴の肴にされたあと、帰り道で紙袋ごと姿を消した。駅で電話をかけ、ベンチで電車を待ち、降車駅で慌てて降りるうちに手元から失われたらしい。妻は帰路をたどり直して探し、交番や電車の遺失物係にも民芸品の藁人形として届けたが、ついに何の連絡も入らなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
異界巡礼(小松和彦)
『異界巡礼』は、小松和彦が著した民俗学の論集である。狐が人に化ける方法と如意宝珠、蓮如絵伝の異人、鬼退治譚と怨霊、家の盛衰をめぐる民話、夢信仰、巫女と陰陽道、洞窟や龍宮の他界観、人を神に祀る信仰、神隠しなどを、昔話・説話・絵巻・お伽草子と高知県物部村などでの調査をもとに論じる。論考と随想を部に分けて並べ、「民俗のランドスケープ」の部には妖怪、凧上げ、祓い、霜月祭り、呪い人形をめぐる小文を収める。