空から村を見物した藤右衛門の神隠し
どんな伝承か
江戸時代、駿河国有度郡寺家上島の百姓藤右衛門は、人柄がよく施しを好む男だった。隣村のけちな豪農久平は門に立つ乞食坊主に何も与えず、やがて夜中に姿を消し、七日後に村の山の大松の上で両眼と両耳を失った屍となって見つかった。その後、同じ坊主が藤右衛門の門に立つようになり、一家は毎日施しをした。冬のある日、礼をしたいという坊主に、藤右衛門は一度天に昇って下界を見下ろしてみたいと冗談まじりに答えた。翌年、村人と竜爪山の穂積神社へ参る途中、藤右衛門は山頂近くで姿を消し、七日目の朝、ふいに家の前に立っていた。空から村を見物してきたとだけ語り、誰に連れられたかは五十七歳で死ぬまで明かさなかったという。
原典より
ある日、藤右衛門は包みきれずついに「わしは空から、この村を見物させて貰ってきた・・・・・・」と語った。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。