竜爪山へ空を飛んだ浪足金六郎
どんな伝承か
江戸時代、駿府に在番した岩手伊ヱ門の家士浪足金六郎は、風邪から高熱を出して寝込んだ。看病の人々が明け方にまどろむと、金六郎は脇差を抜いて裏口から出て行き、空高く舞い上がって竜爪山の方へ飛び去った。その姿は夜目にもはっきり見えたという。八月下旬のことで、大勢で捜すと三日目の夜、竜爪山近くのススキの中に金六郎がいたが、呼んでも答えず刀で切りかかって数人に傷を負わせ、再び鳥のように宙へ舞い上がった。竜爪山に棲む天狗のしわざだろうと、山麓の西奈村の村誌に記されているという。
原典より
そこにいた人々は、ただ唖然としてその姿を見守っていたが、空高く舞い上った金六郎は竜爪山さして翔んで行った。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。