幸運な猟師と鴨と五重塔
どんな伝承か
茂原町の大芝に、一人の幸運な猟師があった。ある朝早く罠を見に行くと猪が掛かっており、曳いて行く途中で灌木に潜む鹿を見つけて鉄砲でしとめた。崖を踏みはずして落ちかかり傍の枝を掴んで踏み止まったが、よく見るとそれは三尺もある大きな山鳥の尾であった。さらに沼に出ると、暁の露が凍って脚を閉じられた鴨が数知れず浮いていたので、一羽ずつ引き抜いて担げるだけ背負った。ところが日が昇ると目覚めた鴨が一斉に羽ばたき、猟師は獲物ごと空へ飛び上がった。幸い鴨が茂原の五重の塔の上に下りたので怪我はなかったが、人々が積んだ綿俵へ飛び降りた時、恐ろしさに目から出た火が乾綿に燃え移り、塔も寺も焼け失せてしまったという。
原典より
茂原町の大芝に、一人の幸運な猟師があつた。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。