飯富の社に猪を供えた十二の村
どんな伝承か
君津郡楢葉村奈良輪の東、坂戸市場というところに飯富の社がある。日本武尊、あるいは豊受大神を祭るといい、森深く神さびた社である。石階を上って百余歩の所に泉が地から湧き、一株の松に水を注いで、亀の足を組み合わせたような奇観を呈するという。昔はこの社の前に氏子と称する十二の村里の人々が召され、毎年陰暦六月二十七日に猪の供物を供えた。猪一頭を殺して皮を剥いで供える習いで、神の威光によって屠る者は救われ、供える家は幸われるとされたが、贄に供えられた者は不思議にも三日を待たずに皆死んだという。この儀式も後にいつとなく廃れた。
原典より
楢葉村奈良輪区の東坂戸市場(旧一宮村)といふ処に、飯富(いいとみといふ)の社がある。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。