祝いの夜に田を駆けた父とケンムン
どんな伝承か
支那事変で親戚の兄が出征することになり、八月のある日、親戚一同が前祝いに集まった。語り手の父はひとり浜で仕事をしていたので、母と語り手が先に行って待っていたが、父はいつまでも来なかった。夜の九時が十時になったころ、田代家の下の田袋(田んぼ)を白い着物の者が駆けていき、若者たちが追って捕まえると、芭蕉布の着物に鉢巻姿の父だった。わけを聞くうちに父はようやく正気づき、青年たちに家まで送られた。翌日の話では、浜から上がって高千穂神社に頭を下げたあたりから記憶がないという。草履とあかりは石垣の上に置かれたままで、父はケンムンに引かれて泥まみれで田を走っていたのだと語られる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。