天狗の松に鋸を入れた名人の怪我
どんな伝承か
児玉町で、鋸を挽かせたら右に出る者がないといわれた時蔵さんが、天狗の松の伐採を任された。民主主義の世になったのだから神の祟りなどあるものかと自分に言い聞かせたが、心の隅には不安が残っていた。まず下の枝から落とそうと一番下の枝に鋸を当てた途端、時さんは宙に跳ね飛ばされ、篠の株の中へ叩きつけられた。淀みに落ちていれば命はなかった、怪我で済んだのは幸いだと仲間は喜んだが、傷はいつまでたっても治らない。天狗に蹴落とされたのだから一生治らないかもしれないと、真顔で言う者さえいた。結局傷は残らなかったものの長引き、時さんはその地区の山仕事には最後まで手を出さなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。